いつの間にか骨折

1.背骨の骨折(椎体骨折)

近年、高齢化社会の影響で、骨粗鬆症性椎体骨折の患者さんが非常に増えています。
「いつの間にか骨折」とも呼ばれるように、明らかなけががなくても骨折が起こることがあります。
中には、強い腰痛を感じずに、後になってレントゲンを撮ってはじめてわかる方もいらっしゃいます。

2.治療について

骨粗鬆症を背景とした、骨粗鬆症性椎体骨折に対する治療については、医師や医療機関ごとに治療方法が一定していないのが現状です。

おおむね、多くの方がコルセットなどの保存治療で治る(骨がくっつく)という見解は一致しています。

しかし、中には骨がくっつかず(偽関節)いつまでも強い腰痛が残ってしまったり、背骨の変形が進み、神経を圧迫してしまった結果、

手術治療(非常に大きな手術)を余儀なくされる患者さんもいらっしゃいます。

3.骨粗鬆症椎体骨折診療マニュアル

そのような中、日本整形外科学会により2020年に「骨粗鬆症椎体骨折診療マニュアル」が作成されました。

今までは、骨粗鬆症学会により作成された「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」があります。しかし、薬物療法(主に骨粗鬆症治療について)が主体であり、診断や治療方法についてはあまり言及されていませんでした。

今回の骨粗鬆症椎体骨折診療マニュアルには、診断や治療方法についてエビデンスに基づいた詳しい言及があり、有用なマニュアルとなっています。

特に重要だと思われる部分について紹介したいと思います。

椎体骨折による仏痛の発生部位は脊柱部,傍脊柱筋部,体側部,殿部など骨折部位から離れたところでも生じる

日整会誌 2020; 94: 882-906より引用

背骨の骨折であるにも関わらず、骨折した場所と離れたおしりに痛みを訴える方も多いと言うことです。

椎体骨折による椎体楔状化は慢性期以降になると局所後弯,そして全脊柱矢状面アライメント異常を引き起こす可能性がある.

この時期になると慢性的な腰背部痛,身長低下などの症状が出現する.それと同時に新たな骨折のリスクが高まり,移動能力などの日常生活動作(activities of daily living: ADL)障害が進行し,QOL も著しく低下する4)-6).これらの結果,椎体骨折のない女性と比較して新規椎体骨折を受傷した女性の12 年後の死亡率は約 2.8 倍高まり,生命予後に悪影響を来すことも報告されている

日整会誌 2020; 94: 882-906より引用

背骨の変形が大きいと、体幹のバランスがとれなくなり、移動能力の低下が進み、さらに骨折しやすい状態へと進んでしまうという負の連鎖が起こり、12年後の死亡率が約2.8倍高くなるというものでした。

骨折の治療を早期に行うことが重要であることがわかります。

4.MRI検査

診断に関しては、レントゲン検査では初期にはわからないことがあるため、疑わしい患者さんに対しては、MRI検査を行うことで早期の診断が可能となることも述べられています。 同時にMRIにより、腫瘍・感染などの発見も可能となります。 さらに、MRIの所見により、将来的に偽関節(骨がくっつかない)となるリスクをある程度予想することができます。 偽関節のリスクが高い方には、しっかりとしたコルセット治療、強力な骨粗鬆症治療、場合によっては早い段階での手術治療が勧められることがあります。

5.骨折の連鎖

椎体骨折が1つあると、次の骨折を起こすリスクは、骨折のない方と比較すると3.2倍 2つあると、9.8倍 3つ以上あると、23.3倍 であると言われています。

6.骨折の連鎖を防ぐためには

このような「骨折の連鎖」を防ぐためには、骨粗鬆症治療は必須ととなります。たかがいつの間にか骨折と考えてしまうと、初期治療が遅れてしまい、日常生活動作に大きな支障が残ってしまう方もいらっしゃるのも現実です。何とかそのような状況を打開するべく日々診療を行っています。

骨折を起こしてしまった場合には、早期に骨粗鬆症の治療を開始することが大切です。

近年、骨粗鬆症治療薬は大きく進歩しており、様々な治療薬が開発されています。

日々診療を行っている中で、個人的な実感としても骨粗鬆症性椎体骨折は、診療する機会が非常に多くなっています。

最新の知見を取り入れながら、骨折の早期診断、早期治療を行うことで、骨折の治癒を目指し、回避できる手術は回避し、骨折をする前の状態にできるだけ近づいていただくこと、さらに骨折の連鎖を食い止めることを目指して日々診療を行うようこころがけています。