頚椎神経根ブロック

頚椎椎間板ヘルニアや頚椎症性神経根症などによる頚部−肩−腕の痛みに悩まされる方は多いと思います。

1．頚部神経根症とは

頚部神経症とは、頚椎椎間板ヘルニアや、頚椎症性神経根症など、頚椎の椎間板や関節が変性した結果、神経を圧迫することにより、首〜上肢の神経痛を引き起こす状態です。

2．症状

代表的な症状としては首を後ろに反らすと、肩甲骨周囲や腕、手に痛みやしびれが放散することが多いです。

夜寝るときに仰向けになることで痛みが誘発されることもあります。

また、痛い方を下にして横向きで寝ると痛みが悪化する特徴もあります。

痛い方の手を頭の上に乗っけると痛みが改善するといった症状も特徴的です。

3．治療

頚部神経根症による神経痛に対しては、内服治療・リハビリ治療がまず最初に行われます。

近年神経障害性疼痛に対する治療薬の選択肢が増えており、内服治療で症状が軽減される方も多いです。

リハビリ治療としては、頚椎の牽引治療や、肩甲骨周囲の超音波・電気治療などがあります。

頚部神経根症の自然経過は一般的には良好です。回復するまでの期間はばらつきがありますが、長期的にみて改善しやすい疾患であるというのが通説です。

一方で、自然経過あるいは保存治療により症状は改善しやすいものの、何らかの症状が残りやすいとも報告されています。

内服治療やリハビリ治療を行っても思うような効果が得られない場合には、神経ブロックが有効であることがあります。

3−1．神経ブロック

神経ブロックの種類としては、頚部硬膜外ブロック・腕神経叢ブロック・選択的頚椎神経根ブロックなどがあります。

選択的に障害された神経根をブロックする方法が、選択的頚椎神経根ブロックです。

頚椎MRIを撮影し、身体所見とあわせて障害された神経を同定し、当該箇所に局所的な神経ブロックを行います。

3−2．選択的頚椎神経根ブロック

頚椎神経根ブロックは、従来透視下（レントゲンを見ながら）に行われてきました。

レントゲン下による手技なので、血管や神経を直接確認することはできません。そのため、椎骨動脈損傷・脳幹梗塞・脊髄梗塞などの重篤な合併症のリスクが少なくないと言われています。

このような合併症を考慮し、実際には透視下の神経根ブロックは安易に行われてこなかった経緯があります。

3−3．超音波ガイド下神経根ブロック

近年は、超音波装置の精度が進歩してきたため、神経や血管をより詳細に評価することが可能になりました。 そのような理由もあり、安全性を重視した超音波ガイド下に頚椎神経根ブロックが行われることが増えてきています。

超音波では、神経組織や血管を確認しながら神経根ブロックを行うことができるため、従来の透視下神経根ブロックよりも安全性が高いと報告されています。 厳密には、透視下と超音波ガイド下のブロックでは、注射をするポイントが少しだけ違います。

透視下神経根ブロックの方がより脊髄に近い部分で、超音波ガイド下神経根ブロックはそれよりも少し外側（神経が枝分かれした先）になります。
薬液の広がりも、超音波ガイド下神経根ブロックは脊髄の方ではなくより脊髄より離れる方向に拡散することがわかってきています。

安全性に意味では、薬液の広がりを考えても超音波ガイド下神経根ブロックがより安全性が高いと考えられます。
そこで気になるのは効果に差があるのかということです。

3−4．超音波ガイド下神経根ブロックの治療効果

近年、超音波ガイド下神経根ブロックと透視下神経根ブロックで、有効率に差がない、つまり同等の効果が得られると言われています。そのため、神経根ブロックを行う際には超音波ガイド下がベターな選択肢ではないかと考えられます。

神経ブロックは準備を含めて１０分程度で行うことができます。少量の麻酔薬と、神経の炎症をおさえるためのステロイド剤を注射します。
麻酔薬を使用するため、ブロック後は腕に力が入りづらい、感覚が麻痺した感じが出ることがあります。
力が入りづらい、感覚が麻痺した感じは通常数時間で自然におさまります。

そのような理由から、当院では頚椎神経根ブロックを行う際には超音波ガイド下神経根ブロックを行っています。

しかし、安全性は極めて高いものの合併症のリスクがないわけではないため、不必要な方が神経ブロックを受けることは避けなければいけないと思います。

3−5．頚椎神経根ブロックの適応

それでは、どのような方が神経根ブロックの適応（神経ブロックをやった方が治療効果が期待できる）になるのでしょうか？

先ほどもお話ししましたが、頚部神経根症は自然経過で症状が改善することが多いと言われています。

内服治療やリハビリ治療を行った上で、症状が残ってしまう方に超音波ガイド下神経根ブロック治療を行うことが望ましいと思います。

しかし、痛みの程度はさまざまで、夜間も眠れないなどの激しい痛みにより日常生活が大きく制限されてしまう方も珍しくありません。

内服治療が効果が出てくるまで待てない、つらくてたまらないといった方には、内服治療を開始しつつ早めの神経根ブロック治療も有効な治療法であると考えます。

また、ある程度痛みが落ち着いてきても、軽い痛みやしびれが残り慢性化してしまっている方に対する治療方法としても効果が期待できます。

これらの治療を行っても、日常生活に支障が出てしまうような痛みが継続している方には、手術治療が必要になることがあります。