テニス肘の保存治療について

上腕骨外側上顆炎(いわゆる「テニス肘」)で苦しまれている方も多いかと思います。難治性の上腕骨外側上顆炎は手術治療の適応となりますが、頻度としては保存治療(非手術的治療)で症状の改善が得られる方が多い疾患です。

今回は上腕骨外側上顆炎に対する保存治療についてお話ししたいと思います。

上腕骨外側上顆炎とは

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)は、米国一般人口の約1〜3%に影響を与える肘の痛みの最も一般的な原因の1つであると言われています。

病理学的には、上腕骨外側上顆の伸筋腕橈骨短頭筋の起始部近くでの微小外傷を引き起こすことが原因と考えられています。

時間の経過とともに、この損傷した領域はさらなる損傷を受けやすくなり、腱に対する構造的な弱点とストレスが増加します。細胞レベルでは、コラーゲン線維破裂、線維芽細胞の増殖、先天性免疫系の活性化などの変化が含まれると言われています。

上腕骨外側上顆炎

リスク要因

上腕骨外側上顆炎は、反復的なストレスによる過負荷損傷であることが多く、外因性リスクとして前腕または手関節の反復的で力強い動きを伴う活動から発生し、特に手首の伸展、前腕回外、および過剰なグリップが挙げられます。

これらの運動は、ラケットスポーツに参加するアスリートや手作業労働者で要求される運動です。

喫煙をしている方は、非喫煙者に比べて約3.4倍なりやすいと言われています。

治療

上腕骨外側上顆炎の診断はほとんどが臨床評価に基づき、多くの場合非手術的治療が選択されます。

しかし、患部の安静、抗炎症薬、装具治療、リハビリ治療(物理療法を含む)など、多数の非手術的介入が選択されます。

現在の上腕骨外側上顆炎に対する治療ガイドラインは非手術的治療を推奨していますが、さまざまな治療間での有効性の比較については確立されていないのが現状です。

2022年に非手術的治療の有用性に関する関するシステマティックレビューが報告されました。(Erick M. et al.”Lateral Epicondylitis: Critical Analysis Review of Current Nonoperative Treatments” JBJS 2022)

局所の安静、非ステロイド性抗炎症薬

急性症状のある患者さんの約80%〜90%は、非ステロイド性抗炎症薬や自然経過で症状が緩和されるといわれています。

ただし、症状が強い患者さんやこれらの治療で改善が得られない場合には次の治療が選択されることもあります。

上腕骨外側上顆炎に対する治療として、経過観察ステロイドの局所注射リハビリ治療のそれぞれの治療結果を評価するランダム化比較試験(RCT)が実施されました。( Smidt N, et al.”Corticosteroid injections, physiotherapy, or a wait-and-see policy for lateral epicondylitis: a randomised controlled trial. Lancet. 2002)

この報告によると、治療開始6週間後時点で、ステロイドの局所注射は他の治療法よりも優れた治療効果が示されましたが、52週間(約1年)後、リハビリ治療グループの治療成功率は91%であり、次に経過観察グループが83%、ステロイド局所グループの成功率は69%であったとされ、長期的に見るとステイロイドの局所注射はリハビリや経過観察と比べて治療結果が劣っていたことが報告されました。

また、Bissetらも同様のランダム化比較試験を実施し、ステロイドの局所注射は投与後6週間で最も有効でありましたが、52週間(約1年)での再発率は72%と報告しました。

リハビリ治療は、6週間以内に痛みと機能により大きな改善をもたらしたが、約1年後の治療成績は、ステロイドの局所注射治療と比較して成功率が同等であったと報告されました。

これらの結果から、上腕骨外側上顆炎に対する治療戦略としては、局所の安静、消炎鎮痛薬、日常運動の修正により自然回復が得られる可能性が高いことがうかがえます。

短期間には、ステロイドの局所注射やリハビリ治療は、疼痛のコントロールが得られる可能性がありますが、時間の経過とともに自然回復を待った患者さんの再発症の可能性の方が低くなることが考えられます。

当院では、これらの結果を考慮し、日常動作の改善、消炎鎮痛薬、リハビリ治療をメインとし、疼痛が非常に強く日常生活にも大きく支障がある方に限定し、短期的な効果を期待して超音波ガイド下のステロイドの局所注射を行うように努めています。