アキレス腱断裂後に発生する深部静脈血栓症
アキレス腱断裂後に発生する深部静脈血栓症についてお話ししたいと思います。
深部静脈血栓症とは
そもそも深部静脈血栓症とはどのような状態でしょうか。
まずはじめに、血液は心臓から血管(動脈)を通って末梢の組織に血液を送ります。
末梢から心臓へとかえってくる血管が静脈です。
深部静脈血栓症とは、ふくらはぎから心臓へとかえる静脈に血のかたまり(血栓)ができてしまう病気です。
小さな血栓であれば大きな問題とはなりにくいですが、大きな血栓になり、血管からはがれて心臓を通過し肺に詰まってしまうと、肺塞栓症とよばれる重篤な状態となってしまいます。
深部静脈血栓症が起こりやすい状態は?
通常、歩くことによりふくらはぎの筋肉が収縮することで、静脈の血流が促されます。
歩くことができないなど、ふくらはぎの筋肉が収縮しない状態が続くと血栓ができやすくなります。
具体的には、寝たり気になってしまった方や足の怪我によりふくらはぎの筋肉が効果的に使えなくなってしまった方は血栓ができやすくなります。
特に下肢の骨折や靱帯・腱の断裂などでギプスやシーネ固定などをされている方はリスクが高くなると言われています。
アキレス腱断裂後の深部静脈血栓症の発生について
アキレス腱断裂後は深部静脈血栓症の発症率が高いと言われています。
ある報告では、アキレス腱断裂に対する保存治療(ギプスや装具治療)を行った130人の患者さんのなかで、合計で62人(48%)の方に深部静脈血栓症が発生したとされています。(Barfod, N et al.”Risk of deep vein thrombosis after acute Achilles tendon rupture: a secondary analysis of a randomized controlled trial comparing early controlled motion of the ankle versus immobilization” Orthopaedic Journal of Sports Medicine 2020 8)つまり2人に1人が深部静脈血栓症を発症しているという驚きの報告です。幸い、肺塞栓症などの重篤な合併症は起こらなかったと報告されています。
日本国内の報告では、アキレス腱断裂の保存治療(ギプスや装具による治療)中、約78.9% に深部静脈血栓症が発症したとされています。(小林良充.”アキレス腱断裂には高頻度に下腿静脈血栓を合併する” 心臓 2011 43)
この報告の中で、特にアキレス腱断裂は、ギプスや装具固定による影響に加えて、アキレス腱と連続する下腿三頭筋がうまく機能しないためにより高頻度に深部静脈血栓症が起こっている可能性があると述べられています。
予防するには
一般的には深部静脈血栓症の予防は、下腿三頭筋と呼ばれるふくらはぎの筋肉を収縮させることが重要であると言われています。
ギプス固定をしていると、足首は動かせなくなります。しかし、ギプスの中で足首を下に踏みこもうとすることで(等尺性運動)下腿三頭筋の収縮は起こります。
ギプスや装具治療を行う上では、この下腿三頭筋の等尺性運動が重要になってきます。
手術と保存治療で発生率に差があるのか?
アキレス断裂後、手術をすることで早い段階から足首の運動を行えるようにすれば深部静脈血栓症の発生率を抑えられるのではないかという考え方もあります。
しかし、現時点では「手術をした方が深部静脈血栓症の発生率は低い」「どちらも発生率は変わらない」という研究があり、はっきりとした答えが出ていないのが現状です。
ひとつの報告として、アキレス腱断裂後の深部静脈血栓症と肺塞栓症の発生率を、手術と保存治療でそれぞれどのくらいであるか調査された報告があります。その結果、手術を受けた群の発症率は0.14~34%, 保存治療を受けた群では0.43~39.1%であったと報告されました。同様に、肺塞栓症に関しては手術例で 0 ~3.2%, 保存例で 0.4~6.5% と報告されました。(Makhdom, A. M., Garceau, S., Dimentberg, R.: Fatal pulmonary embolism following Achilles tendon repair: a case report and a review of the literature. Case Rep. Orthop., 2013: 401968, 2013)
予防方法
現時点でできることとしては、ふくらはぎの等尺性運動が重要になります。
早期発見も重要なので、ギプスやシーネで固定されている状態で、ふくらはぎの痛みがある方は積極的に超音波検査などで深部静脈血栓症の検査を行うことも重要だと考え治療を行っています。